気付いたのは、控え室のベンチの上だった。
目を開けたときに聞こえてきたのは、会長とドクターのなにか深
刻な会話だった。その他に人の気配はなかった。アキラは悟られ
ないように、再び目を閉じた。
「今まで、どうして分からなかったんだね。君もプロじゃないか
ね。」
「へえ、でも、こいつは・・・。」
「あんな無茶な戦い方があるかね。」
「こいつは、こいつは、夢を背負ってたんでさあ。」
「限度というものがあるだろう。このままじゃ、本当に夢で終わ
るよ。」
「夢、夢を掴んでほしかっただけでさあ。」
「それは、あんたの夢だろう。こんな有望な若者の夢を、あんた
が壊してるんだよ。」
「・・・・・・。」
「とにかく、一度、精密検査を受けるんだね。結果が出ないと、
試合の許可は出さないから、そのつもりで。紹介状は書くから。」
アキラは目を見開いて、天井を見ていた。なにも感情が湧かなか
った。
そして、アキラのボクシング人生はこれで、終わった。
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