一年が経っても、アキラの演奏はそれほど上達しなかぅた。なん
とかシンジの邪魔にはならなくなってきたが、アキラの出す音は
ブルースではなくフォークソングだった。
「どうして、シンジさんみたいな音が出ないんですかね。」
「音を見つけるんだよ。そして、その音に感情を込める。全ての
音を出さなくてもいいんだよ。アキラ、お前のギターにはその感
情があるから、うまくできるようになるよ。」
しかし、シンジのギターとなんとか絡めるようになるまでには、
さらに、二年の歳月を費やしていた。
「アキラ、来週、一緒に演るぞ。」
その一言で長かったアキラの修行時代が幕を閉じた。アキラがギ
ターを手にしてからちょうど三年経った春だった。シンジに借り
ていたギターもかなり使い込まれていた。
「今日から、そのギターはお前のもんだ。」
「え?だ、駄目ですよ。それに、こんなに長く借りててすいませ
ん。」
アキラは自分でギターを手に入れることを全く考えなかった。借
りていたことにやっと気付かされた。あわててギターをシンジに
返そうとした。
「ばかやろう。お前の仕込んじまったやつじゃ、俺にはもう泣か
せられねえんだよ。まあ、可愛がってやれや。」
アキラの胸に熱いものがこみ上げてきた。
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