アキラは再びモンスターに命を与えた。蘇った怪物は主人の意を
受け、けたたましく吠えながら一本道を都心へと向かう。
高速からコンクリートジャングルの獣道に入った。しかし、アキ
ラの心は妙に和んだ。帰ってきたと感じる。戻るべきところに戻
ってきた気がする。明日からの好きでもないが、嫌いでもない単
調な仕事がある。ボクシングは捨てたが、ブルースに拾われた。
カズオと別れたが、新しいパートナーのシンジに出会った。もう
すぐ、そこに戻れる。アキラは自然に、自分の愛車と化した白い
モンスターのアクセルを、踏み込んでいた。
アキラは月曜からの、単調ではあるが、少し明日が見えそうな生
活を思い浮かべながら、独り言ちた。
「人生なんて、そうたいしたことが起こる訳じゃないんだよ。」
アキラの頭の中で突然ゴングが鳴った。ワン、ツー、規則正しく、
スリー、フォー、物悲しく、ファイヴ、シックス、優しく、セヴ
ン、エイト、遠く、ナイン、テン、そこまで数えられた。
白いコルベットは大曲に差し掛かっている。
「少し、眠らせてくれ。」
アキラは、目を閉じた。
-了ー
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