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2010年3月15日月曜日

小説 「バック ロード」 16  戸口 了

     3
汗と油まみれの日々が続いた。結局、アキラは精密検査を受けな
かった。そしてあれ以来、ジムには足を踏み入れていなかった。
以前は見習いだった修理工も、ボクシングを辞めてからは整備士
のライセンスを取得し、自動車教習所にも通った。
一年が経ち、二十二歳の春になってもアキラの心は虚無だった。
仕事自体は電気関係が苦手だったが、エンジン周りなどの機会部
分は自分でも少し興味を覚え、特にアメ車などを担当した。
その頃には、酒と煙草、そして女も覚えていた。仕事仲間に誘わ
れるまま飲みに出た。酒の勢いでソープにも足を運んだ。しかし
アキラは、なににものめり込むことはなかった。所持金は増えも
減りもしなかった。
そんなある日、工場に白いコルベットが持ち込まれた。見た目は
極上の手入れを施していた。従業員は全員、スティングレイと呼
ばれる白いモンスターに目を見張った。アキラはそれが昔、世界
チャンピオンの命を奪った車だということに気付いた。しかし、
写真で見たその車は原形を全く留めていないただの鉄クズだった。
実物を見て、アキラは軽い興奮を覚えた。
若い男が事務所に入っていった。
「アキラ!」

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