アキラは再びモンスターに命を与えた。蘇った怪物は主人の意を
受け、けたたましく吠えながら一本道を都心へと向かう。
高速からコンクリートジャングルの獣道に入った。しかし、アキ
ラの心は妙に和んだ。帰ってきたと感じる。戻るべきところに戻
ってきた気がする。明日からの好きでもないが、嫌いでもない単
調な仕事がある。ボクシングは捨てたが、ブルースに拾われた。
カズオと別れたが、新しいパートナーのシンジに出会った。もう
すぐ、そこに戻れる。アキラは自然に、自分の愛車と化した白い
モンスターのアクセルを、踏み込んでいた。
アキラは月曜からの、単調ではあるが、少し明日が見えそうな生
活を思い浮かべながら、独り言ちた。
「人生なんて、そうたいしたことが起こる訳じゃないんだよ。」
アキラの頭の中で突然ゴングが鳴った。ワン、ツー、規則正しく、
スリー、フォー、物悲しく、ファイヴ、シックス、優しく、セヴ
ン、エイト、遠く、ナイン、テン、そこまで数えられた。
白いコルベットは大曲に差し掛かっている。
「少し、眠らせてくれ。」
アキラは、目を閉じた。
-了ー
2010年4月16日金曜日
2010年4月15日木曜日
小説 「バック ロード」 45 戸口 了
「ありがとう。」
従業員が差し出したコーヒーを受け取ろうとしたアキラの手は震
えていた。そして、力加減を失った指は紙コップを握り潰した。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、すまん。こいつの振動が乗り移ったみたいだ。」
白煙を上げてコルベットは発進し、助走路を無視して本線を横切
り、いきなり追い越し車線を加速した。
アキラは出来る限りに自分に緊張を科した。本線に戻り、先行車
との間を極端に詰め、そして、鋭く抜き去る。毛糸の玉にじゃれ
つく子猫のように、次から次へと繰り返し、なにも考える余地を
与えない。
東京に入る前、最後の給油のためにパーキングに乗り入れた。
「いらっしゃいませ!」
「満タン。」
「お客さん!お客さん!」
「あ、ああ?」
従業員に起こされるまで、アキラの意識は途切れていた。
「大丈夫ですか?ちょっと休んでいかれれば?」
「いや、もうすぐ家だから。」
従業員が差し出したコーヒーを受け取ろうとしたアキラの手は震
えていた。そして、力加減を失った指は紙コップを握り潰した。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、すまん。こいつの振動が乗り移ったみたいだ。」
白煙を上げてコルベットは発進し、助走路を無視して本線を横切
り、いきなり追い越し車線を加速した。
アキラは出来る限りに自分に緊張を科した。本線に戻り、先行車
との間を極端に詰め、そして、鋭く抜き去る。毛糸の玉にじゃれ
つく子猫のように、次から次へと繰り返し、なにも考える余地を
与えない。
東京に入る前、最後の給油のためにパーキングに乗り入れた。
「いらっしゃいませ!」
「満タン。」
「お客さん!お客さん!」
「あ、ああ?」
従業員に起こされるまで、アキラの意識は途切れていた。
「大丈夫ですか?ちょっと休んでいかれれば?」
「いや、もうすぐ家だから。」
2010年4月14日水曜日
小説 「バック ロード」 44 戸口 了
8
単調な高速が益々アキラに襲いかかる。
出口は遥か先、この高速の終点。アキラは本線と追い越し車線の
間を行ったり来たりして、変化をつける。しかし、次第にハンド
ルを握る手から、力が失われていくのが分かる。車の振動と波長
の合わない自分の指先を見つめた。そしてガソリンが底をついた
のに気付いた。
給油のために次のパーキングのハイオクのスタンドに着けた。
「いらっしゃいませ!」
「満タン。」
「はい!・・・お客さん、いい車ですね。俺も乗ってみたいなあ。」
「ああ、乗るだけなら簡単なことだよ。」
「はあ?・・・それにしても、お客さん。ちょっと顔色悪いです
よ。」
アキラは自分の体調を悟られるのを嫌った。
「あ、早起きしたから。そうだ、悪いけどコーヒーを一杯、持っ
てきてくれないか。」
清算と一緒に、従業員はホットコーヒーを紙コップで持ってきた。
単調な高速が益々アキラに襲いかかる。
出口は遥か先、この高速の終点。アキラは本線と追い越し車線の
間を行ったり来たりして、変化をつける。しかし、次第にハンド
ルを握る手から、力が失われていくのが分かる。車の振動と波長
の合わない自分の指先を見つめた。そしてガソリンが底をついた
のに気付いた。
給油のために次のパーキングのハイオクのスタンドに着けた。
「いらっしゃいませ!」
「満タン。」
「はい!・・・お客さん、いい車ですね。俺も乗ってみたいなあ。」
「ああ、乗るだけなら簡単なことだよ。」
「はあ?・・・それにしても、お客さん。ちょっと顔色悪いです
よ。」
アキラは自分の体調を悟られるのを嫌った。
「あ、早起きしたから。そうだ、悪いけどコーヒーを一杯、持っ
てきてくれないか。」
清算と一緒に、従業員はホットコーヒーを紙コップで持ってきた。
2010年4月13日火曜日
小説 「バック ロード」 43 戸口 了
「え?どうしたんだよ、急に。」
「この車。今日中に返さなきゃいけないんだよ。」
「どうして、・・・この車、お前の・・・。」
「俺はこいつを持てる身分じゃないよ。」
「じゃあ、なにしに来たんだよ・・・」
「幸せにな。」
「おい、待てよ!今日の席だって、取ってあるのに・・・。」
アキラは最後まで聞かずにアクセルを踏み込んだ。カズオは車内
に突っ込んでいた上半身を仰け反らせて身を退く。急発進の反動
でドアが閉まっていた。アキラはタイヤを鳴かせて峠の入り口へ
コルベットを向けた。
日曜の早朝のアップロードでは誰も邪魔する者はいなかった。常
に襲ってくる眠気と戦いながらアキラは頂上を目指す。眠気を追
い払うために、アキラはアクセルワークをこまめにし、運転に集
中した。
頂上の駐車場の脇を通り過ぎ去るときも、もう高速に乗ることだ
けを考えていた。
そこに赤いゴルフが停まっていることに気付かなかった。
「この車。今日中に返さなきゃいけないんだよ。」
「どうして、・・・この車、お前の・・・。」
「俺はこいつを持てる身分じゃないよ。」
「じゃあ、なにしに来たんだよ・・・」
「幸せにな。」
「おい、待てよ!今日の席だって、取ってあるのに・・・。」
アキラは最後まで聞かずにアクセルを踏み込んだ。カズオは車内
に突っ込んでいた上半身を仰け反らせて身を退く。急発進の反動
でドアが閉まっていた。アキラはタイヤを鳴かせて峠の入り口へ
コルベットを向けた。
日曜の早朝のアップロードでは誰も邪魔する者はいなかった。常
に襲ってくる眠気と戦いながらアキラは頂上を目指す。眠気を追
い払うために、アキラはアクセルワークをこまめにし、運転に集
中した。
頂上の駐車場の脇を通り過ぎ去るときも、もう高速に乗ることだ
けを考えていた。
そこに赤いゴルフが停まっていることに気付かなかった。
2010年4月12日月曜日
小説 「バック ロード」 42 戸口 了
「ヤスコは?」
「あ、俺の車で帰したよ。今日は大事な日だから。・・・それと、
すまんな。アキラ。俺の誤解だった。」
「カズオ、俺の席はこっちだ。」
アキラはカズオの支えを振り払ってコルベットの運転席に転がり
込んだ。エンジンを掛け、カズオの乗り込むのを見て、一気にク
ラッチを繋ぐ。白いモンスターは朝靄の中をテールをスライドさ
せ、急発進した。
「アキラ、身体を診てから、少し休んでてくれ。」
「後で迎えを寄越すから。」
「おい、聞いてるのか?」
アキラはいつもより激しい振動を感じた。疲れと軽い興奮のせい
だと思っていた。しかし、その振動が強烈な眠気を誘っているの
にも気付いていた。アキラはカズオの言葉にも上の空で、それら
を打ち消すようにアクセルを全開にする。
カズオの病院の玄関まで乗り入れてコルベットは急停車した。
「カズオ、俺、帰るよ。」
「あ、俺の車で帰したよ。今日は大事な日だから。・・・それと、
すまんな。アキラ。俺の誤解だった。」
「カズオ、俺の席はこっちだ。」
アキラはカズオの支えを振り払ってコルベットの運転席に転がり
込んだ。エンジンを掛け、カズオの乗り込むのを見て、一気にク
ラッチを繋ぐ。白いモンスターは朝靄の中をテールをスライドさ
せ、急発進した。
「アキラ、身体を診てから、少し休んでてくれ。」
「後で迎えを寄越すから。」
「おい、聞いてるのか?」
アキラはいつもより激しい振動を感じた。疲れと軽い興奮のせい
だと思っていた。しかし、その振動が強烈な眠気を誘っているの
にも気付いていた。アキラはカズオの言葉にも上の空で、それら
を打ち消すようにアクセルを全開にする。
カズオの病院の玄関まで乗り入れてコルベットは急停車した。
「カズオ、俺、帰るよ。」
2010年4月11日日曜日
小説 「バック ロード」 41 戸口 了
「やめて~!!」
しかし、同時に後方のコルベットのドアが開く音と、ヤスコの絶
叫がアキラの胸を貫いた。
速度の鈍ったアキラのパンチより早く、カズオの左ストレートが
アキラの顎を捉えていた。
カズオのカウンターをまともに喰らったアキラは後方に吹っ飛び
ながらも体勢を立て直そうとしたが、コルベットの屋根の角に後
頭部を打ち付け、そのままの姿勢でコルベットを背に崩れ落ち、
意識を失った。
「アキラ!」
目を開けたときには、辺りは明るくなっていた。そして、心配そ
うに覗き込むカズオの顔がある。
「気が付いたか。大丈夫か?」
「ああ、多分。」
「俺の家へ行こう。とにかく診なきゃだめだ。」
カズオはアキラを抱き起こし、反対側の助手席に向かおうとした。
しかし、同時に後方のコルベットのドアが開く音と、ヤスコの絶
叫がアキラの胸を貫いた。
速度の鈍ったアキラのパンチより早く、カズオの左ストレートが
アキラの顎を捉えていた。
カズオのカウンターをまともに喰らったアキラは後方に吹っ飛び
ながらも体勢を立て直そうとしたが、コルベットの屋根の角に後
頭部を打ち付け、そのままの姿勢でコルベットを背に崩れ落ち、
意識を失った。
「アキラ!」
目を開けたときには、辺りは明るくなっていた。そして、心配そ
うに覗き込むカズオの顔がある。
「気が付いたか。大丈夫か?」
「ああ、多分。」
「俺の家へ行こう。とにかく診なきゃだめだ。」
カズオはアキラを抱き起こし、反対側の助手席に向かおうとした。
2010年4月10日土曜日
小説 「バック ロード」 40 戸口 了
7
グラウンドに二筋のライトが延びている。カズオは待っていた。
アキラはライトと垂直にコルベットを停車させた。エンジンを切
り、外に出る。瞬間、ライトで表情は見えなかったが、カズオが
飛び掛ってきたのが分かった。
「アキラ!お前、なにやってんだ!」
左頬に衝撃を受け、アキラは仰け反った。口の中に痛みが走る。
左手の甲で拭うと血が付いていた。
「まだ、衰えてないな。」
一瞬、笑みを浮かべたアキラは構えて、一歩退いたカズオとの間
合いを詰めた。カズオは後ろに退きながらもパンチを繰り出す。
アキラは本来のボクシングスタイルに戻っていた。カズオに打た
せるだけ打たせていた。自分から手を出してしまった以上、退く
に退けなくなったカズオは戸惑った。アキラの真意が掴めない。
カズオの目を見ていたアキラはそれを気付いていて、どこかで決
着をつけなければならないと考え、その機を窺った。
カズオの左ストレートが見えた瞬間、反射的にアキラはクロスカ
ウンター狙いの、右ストレートを放つ。
グラウンドに二筋のライトが延びている。カズオは待っていた。
アキラはライトと垂直にコルベットを停車させた。エンジンを切
り、外に出る。瞬間、ライトで表情は見えなかったが、カズオが
飛び掛ってきたのが分かった。
「アキラ!お前、なにやってんだ!」
左頬に衝撃を受け、アキラは仰け反った。口の中に痛みが走る。
左手の甲で拭うと血が付いていた。
「まだ、衰えてないな。」
一瞬、笑みを浮かべたアキラは構えて、一歩退いたカズオとの間
合いを詰めた。カズオは後ろに退きながらもパンチを繰り出す。
アキラは本来のボクシングスタイルに戻っていた。カズオに打た
せるだけ打たせていた。自分から手を出してしまった以上、退く
に退けなくなったカズオは戸惑った。アキラの真意が掴めない。
カズオの目を見ていたアキラはそれを気付いていて、どこかで決
着をつけなければならないと考え、その機を窺った。
カズオの左ストレートが見えた瞬間、反射的にアキラはクロスカ
ウンター狙いの、右ストレートを放つ。
2010年4月9日金曜日
小説 「バック ロード」 39 戸口 了
「え?どうして?」
「あ、約束してたから。」
ヤスコは不審な表情を表わしながらもボタンを押した。アキラは
押し終えたところで、それを取り上げた。
「え?あ、な、なにするの。」
「もしもし・・・。」
カズオの声が聞こえてきた。
「あ、俺だけど。」
「え?誰?・・・あ、アキラ?な、なんでお前が?」
「話は後だ。とにかくグラウンドで待っててくれ。すぐ行くから。」
アキラは電話を切り、ヤスコのバッグにそれを突っ込んだ。
エンジンを掛け、怪物を一声吠えさせ、再びアキラは街に向かっ
た。
観衆は注目したが、後を追う者はいない。そして、皆が道を譲っ
たために追われる者もいなかった。
アキラはダウンロードを一気に駆け下りていく。
「あ、約束してたから。」
ヤスコは不審な表情を表わしながらもボタンを押した。アキラは
押し終えたところで、それを取り上げた。
「え?あ、な、なにするの。」
「もしもし・・・。」
カズオの声が聞こえてきた。
「あ、俺だけど。」
「え?誰?・・・あ、アキラ?な、なんでお前が?」
「話は後だ。とにかくグラウンドで待っててくれ。すぐ行くから。」
アキラは電話を切り、ヤスコのバッグにそれを突っ込んだ。
エンジンを掛け、怪物を一声吠えさせ、再びアキラは街に向かっ
た。
観衆は注目したが、後を追う者はいない。そして、皆が道を譲っ
たために追われる者もいなかった。
アキラはダウンロードを一気に駆け下りていく。
2010年4月8日木曜日
小説 「バック ロード」 38 戸口 了
アキラは煙草に火を点けた。そして、窓を少し開けて気まずさを
隠すために涼風を入れようとした。しかし、車内の空気は変わら
なかった。
「どうしてそんなに否定的なの?それに急に話されても、私はア
キラのことなんかなにも知らないんだから。」
「カズオはどうしてた?」
「え?カズオさん?カズオさんは、いつも休みになると帰ってき
ていたよ。必ず連絡してくれたし、その他のときも・・・。」
「ああ、そういうことか。」
「なによ、どういうこと?!何年も連絡一つ寄越さないで、いま
さらなにが言いたいの?!自分勝手なこと考えないで!」
「電話、持ってるか?」
「え?ええ・・・。」
ヤスコはバッグから携帯電話を取り出した。
「カズオに掛けてくれないか。」
隠すために涼風を入れようとした。しかし、車内の空気は変わら
なかった。
「どうしてそんなに否定的なの?それに急に話されても、私はア
キラのことなんかなにも知らないんだから。」
「カズオはどうしてた?」
「え?カズオさん?カズオさんは、いつも休みになると帰ってき
ていたよ。必ず連絡してくれたし、その他のときも・・・。」
「ああ、そういうことか。」
「なによ、どういうこと?!何年も連絡一つ寄越さないで、いま
さらなにが言いたいの?!自分勝手なこと考えないで!」
「電話、持ってるか?」
「え?ええ・・・。」
ヤスコはバッグから携帯電話を取り出した。
「カズオに掛けてくれないか。」
2010年4月7日水曜日
小説 「バック ロード」 37 戸口 了
6
「元気だったか?」
「私?・・・元気。」
「どうしてたんだよ。」
「どうって、ここの大学出て、勤めてた。それより、アキラこそ
なにしてたの。あれっきり、なにも連絡ないんだもの。」
「別になにもないよ。なにも変わっちゃいない。」
「どうしてそんなこと言うの?」
「カズオに聞いてるんだろ?」
「う、うん。でも試合のことと、この前のライヴの話だけ。」
「ああ、それですべてだよ。」
「身体は大丈夫?ずいぶん心配したんだから。」
「多分。ボクシング、棄てたから。」
「でも、音楽やるんでしょ?カズオさん、誉めてた。夢があって
いいじゃない。」
「ああ、夢か。だけど、ブルースに夢なんかあるのかなあ。」
「なに言ってるの。アキラの夢でしょ。」
「いや、夢も・・・、棄てた。」
「元気だったか?」
「私?・・・元気。」
「どうしてたんだよ。」
「どうって、ここの大学出て、勤めてた。それより、アキラこそ
なにしてたの。あれっきり、なにも連絡ないんだもの。」
「別になにもないよ。なにも変わっちゃいない。」
「どうしてそんなこと言うの?」
「カズオに聞いてるんだろ?」
「う、うん。でも試合のことと、この前のライヴの話だけ。」
「ああ、それですべてだよ。」
「身体は大丈夫?ずいぶん心配したんだから。」
「多分。ボクシング、棄てたから。」
「でも、音楽やるんでしょ?カズオさん、誉めてた。夢があって
いいじゃない。」
「ああ、夢か。だけど、ブルースに夢なんかあるのかなあ。」
「なに言ってるの。アキラの夢でしょ。」
「いや、夢も・・・、棄てた。」
2010年4月6日火曜日
小説 「バック ロード」 36 戸口 了
カズオの家を通り過ぎたとき、ヤスコの顔に不安が横切ったが、
アキラはなにごともなかったかのようにコルベットを峠の上りに
入れた。アキラの運転は益々荒くなっている。白いモンスターは
本来の姿を剥きだしにしていた。大排気量のエンジンに極端に軽
いボディを載せた怪物はテールを大きくスライドさせながら、小
さな獲物を次から次へと蹴散らせていった。先行者のテールに接
触させる位に近づき、爆音で煽った。
一台だけ立ち向かった車がいた。四駆の俊敏な日本車で、コーナ
ーでは地面を的確に噛み、アキラのコルベットでは歯が立たない。
しかし、アキラはパワースライドさせ、対向車線にはみ出してま
で果敢に攻める。やがて、恐れをなした相手は脇道にノーズを突
っ込んでいた。
もう、ヤスコはなにも喋らなかった。シートベルトを締めてはい
たが、手と足を突っ張り身体を安定させるのに必死だった。
頂上の駐車場に乗り入れたときには、噂を聞きつけてきた連中が
溜まっていた。その中をアキラはゆっくりと進み、端の空いてい
るスペースに滑り込ませる。そして、エンジンを切った。
観衆は遠巻きに取り囲んで、ヒーローの出現を見守っている。
しかし、その期待は裏切られた。
アキラはなにごともなかったかのようにコルベットを峠の上りに
入れた。アキラの運転は益々荒くなっている。白いモンスターは
本来の姿を剥きだしにしていた。大排気量のエンジンに極端に軽
いボディを載せた怪物はテールを大きくスライドさせながら、小
さな獲物を次から次へと蹴散らせていった。先行者のテールに接
触させる位に近づき、爆音で煽った。
一台だけ立ち向かった車がいた。四駆の俊敏な日本車で、コーナ
ーでは地面を的確に噛み、アキラのコルベットでは歯が立たない。
しかし、アキラはパワースライドさせ、対向車線にはみ出してま
で果敢に攻める。やがて、恐れをなした相手は脇道にノーズを突
っ込んでいた。
もう、ヤスコはなにも喋らなかった。シートベルトを締めてはい
たが、手と足を突っ張り身体を安定させるのに必死だった。
頂上の駐車場に乗り入れたときには、噂を聞きつけてきた連中が
溜まっていた。その中をアキラはゆっくりと進み、端の空いてい
るスペースに滑り込ませる。そして、エンジンを切った。
観衆は遠巻きに取り囲んで、ヒーローの出現を見守っている。
しかし、その期待は裏切られた。
2010年4月5日月曜日
小説 「バック ロード」 35 戸口 了
アキラはシートに身を沈めたまま、明かりのこぼれる二階のヤス
コの部屋に目をやり、煙草に火を点けた。
カーテンが揺れる。間もなく、玄関から不安げな顔をして飛び出
してきたヤスコの姿があった。
「え?アキラ?アキラなの?来てくれたの?」
「やあ、ちょっと時間あるか?」
「え?明日があるのに・・・、カズオさんは?」
「ああ・・・、これから。」
アキラは煙草を灰皿に押し付け、エンジンを掛けた。
「あ、ちょっと待ってて。」
ヤスコは小さなバッグを持って再び現れた。
アキラは来た道を来たときと同じ荒々しさで、折り返した。
「アキラ、元気だった?」
「ずっと、なにしてたの?」
アキラはヤスコの質問を荒馬を力ずくで乗りこなすような運転と、
荒馬が嘶く爆音でかき消していた。ヤスコも口を閉ざさるを得な
かった。
コの部屋に目をやり、煙草に火を点けた。
カーテンが揺れる。間もなく、玄関から不安げな顔をして飛び出
してきたヤスコの姿があった。
「え?アキラ?アキラなの?来てくれたの?」
「やあ、ちょっと時間あるか?」
「え?明日があるのに・・・、カズオさんは?」
「ああ・・・、これから。」
アキラは煙草を灰皿に押し付け、エンジンを掛けた。
「あ、ちょっと待ってて。」
ヤスコは小さなバッグを持って再び現れた。
アキラは来た道を来たときと同じ荒々しさで、折り返した。
「アキラ、元気だった?」
「ずっと、なにしてたの?」
アキラはヤスコの質問を荒馬を力ずくで乗りこなすような運転と、
荒馬が嘶く爆音でかき消していた。ヤスコも口を閉ざさるを得な
かった。
2010年4月4日日曜日
小説 「バック ロード」 34 戸口 了
その瞬間、アキラの目に、大音量のクラクションとヘッドライト
の点滅と共に巨大な影が飛び込んできた。アキラの後ろについた
車は慌てて後続の最後尾に戻った。アキラはアクセルを緩めるこ
となく、一瞬怯んだ一般車と大型トラックの隙間にノーズを突っ
込む。
間一髪、先頭に立ったアキラはミラーで確認することもなく、次
のカーブを目指していた。もう、街の入り口まで追ってくるもの
はいなかった。
入り口の交差点で停まった。角にはカズオの実家の病院がある。
信号が変わると同時にアキラは右折して、大通りの中央車線に入
った。アキラの小さい頃は電車が走っていたが、廃止されてから
は片側三車線の広い道路になっている。
よく通ったグラウンドのある大橋を渡り、アキラはさらに西へ走
らせた。公園が見えたところでコルベットは左折して、閑静な住
宅街に乗り入れていた。やがて玄関脇に赤いゴルフを停めている
一軒家が見える。
ヤスコの家である。赤いゴルフはヤスコの車だろう。
アキラはその前で急停車させ、そして、一度アクセルを吹かせて
切った。モンスターの急激なブレーキ音と爆音が静寂な空気を震
わせる。
の点滅と共に巨大な影が飛び込んできた。アキラの後ろについた
車は慌てて後続の最後尾に戻った。アキラはアクセルを緩めるこ
となく、一瞬怯んだ一般車と大型トラックの隙間にノーズを突っ
込む。
間一髪、先頭に立ったアキラはミラーで確認することもなく、次
のカーブを目指していた。もう、街の入り口まで追ってくるもの
はいなかった。
入り口の交差点で停まった。角にはカズオの実家の病院がある。
信号が変わると同時にアキラは右折して、大通りの中央車線に入
った。アキラの小さい頃は電車が走っていたが、廃止されてから
は片側三車線の広い道路になっている。
よく通ったグラウンドのある大橋を渡り、アキラはさらに西へ走
らせた。公園が見えたところでコルベットは左折して、閑静な住
宅街に乗り入れていた。やがて玄関脇に赤いゴルフを停めている
一軒家が見える。
ヤスコの家である。赤いゴルフはヤスコの車だろう。
アキラはその前で急停車させ、そして、一度アクセルを吹かせて
切った。モンスターの急激なブレーキ音と爆音が静寂な空気を震
わせる。
2010年4月3日土曜日
小説 「バック ロード」 33 戸口 了
5
幾台かの車の爆音に、アキラは我に返った。
峠の頂上の駐車場は週末になると、走り屋達の溜まり場になって
いた。アキラはコルベットに乗り込み、エンジンを掛け、アクセ
ルを目一杯吹かすと同時に、一気にクラッチを繋いだ。白いモン
スターは後輪を思い切りスキッドさせて、峠のダウンロードに滑
り込む。
新参者を遠くから静観していた連中の視線が集中した。
そして、二台の腕に覚えのある車が、後を追って飛び出していく。
車の性格の差は歴然としていた。大排気量のパワーだけの怪物で
は下りのワインディングロードにおいて、コンパクトで高性能な
日本車には太刀打ちできなかった。
アキラはコルベットを震わせ、限界の状態でコーナーを攻めてい
く。しかし、いとも簡単に二台の車に背後につけられていた。そ
して、執拗にパッシングを受けている。
「そんなつもりじゃなかったのになあ。」
アキラは心の中で呟いた。
そのときには、アキラの前を一般車が塞いでいた。仕方なく、ア
キラは右カーブで対向車線に、コルベットを乗り入れた。一台が
アキラの後ろについた。アキラは床一杯にアクセルを踏み込む。
幾台かの車の爆音に、アキラは我に返った。
峠の頂上の駐車場は週末になると、走り屋達の溜まり場になって
いた。アキラはコルベットに乗り込み、エンジンを掛け、アクセ
ルを目一杯吹かすと同時に、一気にクラッチを繋いだ。白いモン
スターは後輪を思い切りスキッドさせて、峠のダウンロードに滑
り込む。
新参者を遠くから静観していた連中の視線が集中した。
そして、二台の腕に覚えのある車が、後を追って飛び出していく。
車の性格の差は歴然としていた。大排気量のパワーだけの怪物で
は下りのワインディングロードにおいて、コンパクトで高性能な
日本車には太刀打ちできなかった。
アキラはコルベットを震わせ、限界の状態でコーナーを攻めてい
く。しかし、いとも簡単に二台の車に背後につけられていた。そ
して、執拗にパッシングを受けている。
「そんなつもりじゃなかったのになあ。」
アキラは心の中で呟いた。
そのときには、アキラの前を一般車が塞いでいた。仕方なく、ア
キラは右カーブで対向車線に、コルベットを乗り入れた。一台が
アキラの後ろについた。アキラは床一杯にアクセルを踏み込む。
2010年4月2日金曜日
小説 「バック ロード」 32 戸口 了
工場では、シンジが黙々と車に向かっていた。
「起こしちまったか?すまんな。これ、月曜が納車だから。」
「シンジさん、昨日は本当にありがとうございました。」
「ははは、そんなことは、気にしなくっていいんだよ。」
シンジは再び、車の下に潜った。アキラは事務所に行き、コルベ
ットの鍵を取り、エンジンを掛けた。鋭い音が工場に木霊した。
「アキラ、明後日からでいいんだぞ。」
「はあぁ、ちょっと調子を見とこうと思いまして。」
アキラは静かにコルベットを発進させた。
「アキラ、今日、演るんだから早く戻れよ。」
「分かりました。行ってきます。」
工場を出たアキラはアクセルを思いっきり踏んだが、相変わらず
コルベットは伸びなかった。見送ったシンジは小首を傾げていた。
アキラはいつもと反対の首都高に乗った。平日よりは空いている
都心に向けた。やがて、目覚めた白いモンスターは東名に入り、
西に向かう頃には息を吹き返し、本当の主人を乗せて、蘇るよう
に爆音を轟かせた。
「起こしちまったか?すまんな。これ、月曜が納車だから。」
「シンジさん、昨日は本当にありがとうございました。」
「ははは、そんなことは、気にしなくっていいんだよ。」
シンジは再び、車の下に潜った。アキラは事務所に行き、コルベ
ットの鍵を取り、エンジンを掛けた。鋭い音が工場に木霊した。
「アキラ、明後日からでいいんだぞ。」
「はあぁ、ちょっと調子を見とこうと思いまして。」
アキラは静かにコルベットを発進させた。
「アキラ、今日、演るんだから早く戻れよ。」
「分かりました。行ってきます。」
工場を出たアキラはアクセルを思いっきり踏んだが、相変わらず
コルベットは伸びなかった。見送ったシンジは小首を傾げていた。
アキラはいつもと反対の首都高に乗った。平日よりは空いている
都心に向けた。やがて、目覚めた白いモンスターは東名に入り、
西に向かう頃には息を吹き返し、本当の主人を乗せて、蘇るよう
に爆音を轟かせた。
2010年3月31日水曜日
小説 「バック ロード」 31 戸口 了
部屋に戻ったときに、ドアの隙間に一通の手紙が差し込まれてい
るのに気付いてはいた。しかし、アキラはかなり酔っていたのも
あり、手にしてそのままテーブルの上に放り投げ、ベッドに潜り
込んだ。そして、泥のように眠った。
目覚めたのは、翌日の昼を過ぎていた。工場から聞こえる物音で
目が覚めた。土、日はアキラの会社では誰も就業していなかった。
前日の酔いの名残りを留めたアキラは、台所で頭から冷水を浴び、
ベッドに腰掛けた。しかし、一向に醒める兆しを見せなかった。
それを、一瞬にして変えたのは例の手紙だった。
手に取りベッドに戻ったアキラはそれを、差出人を見ても、それ
がカズオの父親であることに暫く気付かなかった。そして、封を
切り、中に列記されているヤスコの名を確認して、初めてすべて
を理解した。
アキラは暫く、動けなかった。事態を悟ったアキラの頭の中には
昔の思い出が、走馬灯のように蘇った。
居ても立っても居られなくなったアキラは、着替えて工場に降り
た。
るのに気付いてはいた。しかし、アキラはかなり酔っていたのも
あり、手にしてそのままテーブルの上に放り投げ、ベッドに潜り
込んだ。そして、泥のように眠った。
目覚めたのは、翌日の昼を過ぎていた。工場から聞こえる物音で
目が覚めた。土、日はアキラの会社では誰も就業していなかった。
前日の酔いの名残りを留めたアキラは、台所で頭から冷水を浴び、
ベッドに腰掛けた。しかし、一向に醒める兆しを見せなかった。
それを、一瞬にして変えたのは例の手紙だった。
手に取りベッドに戻ったアキラはそれを、差出人を見ても、それ
がカズオの父親であることに暫く気付かなかった。そして、封を
切り、中に列記されているヤスコの名を確認して、初めてすべて
を理解した。
アキラは暫く、動けなかった。事態を悟ったアキラの頭の中には
昔の思い出が、走馬灯のように蘇った。
居ても立っても居られなくなったアキラは、着替えて工場に降り
た。
2010年3月30日火曜日
小説 「バック ロード」 30 戸口 了
署から離れたところの居酒屋で呑んだ。
「明日から、演るぞ。」
「ああ、今、アキラのギター借りてるから一人ずつな。」
どうしてシンジのギターがないか、アキラは理解していた。
「あのギター、シンジさんが使って下さいよ。もともとシンジさ
んのギターなんですから。」
「ばかやろう。あれはアキラの女房なんだよ。俺がいくら頑張っ
ても、俺の思う通りに泣いてくんねえんだよ。」
「シンジさん、それじゃあ姦通ですよ。」
「ははは、大丈夫。手はつけないよ。俺もすぐ再婚するから。」
アキラは泪を流していた。
「めそめそすんじゃねえよ。さあ、行くぞ。」
「え?行くって、どこへ?」
「決まってんじゃねえか。天国だよ、天国。」
そのまま、ソープに連れて行かれ、そして地元でもう一度、呑ん
だ。
寮に戻ったときには夜もかなりふけていた。そして工場には定期
的に持ち込まれていた白いコルベットが静かに眠っていた。
「アキラ、月曜からの仕事だよ。今回は車検だってよ。」
月光に浮かぶなまめかしいボディを、アキラはしばし眺めていた。
「明日から、演るぞ。」
「ああ、今、アキラのギター借りてるから一人ずつな。」
どうしてシンジのギターがないか、アキラは理解していた。
「あのギター、シンジさんが使って下さいよ。もともとシンジさ
んのギターなんですから。」
「ばかやろう。あれはアキラの女房なんだよ。俺がいくら頑張っ
ても、俺の思う通りに泣いてくんねえんだよ。」
「シンジさん、それじゃあ姦通ですよ。」
「ははは、大丈夫。手はつけないよ。俺もすぐ再婚するから。」
アキラは泪を流していた。
「めそめそすんじゃねえよ。さあ、行くぞ。」
「え?行くって、どこへ?」
「決まってんじゃねえか。天国だよ、天国。」
そのまま、ソープに連れて行かれ、そして地元でもう一度、呑ん
だ。
寮に戻ったときには夜もかなりふけていた。そして工場には定期
的に持ち込まれていた白いコルベットが静かに眠っていた。
「アキラ、月曜からの仕事だよ。今回は車検だってよ。」
月光に浮かぶなまめかしいボディを、アキラはしばし眺めていた。
2010年3月29日月曜日
小説 「バック ロード」 29 戸口 了
「お前も、一緒か!」
「その人は、違う!」
「救急車が先だ!おとなしくしてろよ!今、車が来るから。」
救急車の出るのを待って二人はパトカーに分乗し、署に連行され
た。
「あの人は関係ない!」
警察の尋問を受けたアキラから出た言葉はそれだけだった。
「お前、プロだったんだってなあ。」
「それがどういうことか、分かってんだろうな。」
「いつまで、だんまり決め込むつもりなんだ。え?」
「そっちがそのつもりなら、覚悟しとけよ。」
「死ぬまで、出してやんねえからな。」
結局、アキラは拘置期限一杯まで過ごした。釈放されたのは期限
が切れる最後の金曜日の午後だった。
身柄引受人はシンジだった。そして、シンジの尽力だったのを、
アキラは聞かされていた。警察署に迎えに来たシンジに、アキラ
は深く頭を下げた。
「よし、呑みに行くぞ。」
シンジの第一声は、それだった。
「その人は、違う!」
「救急車が先だ!おとなしくしてろよ!今、車が来るから。」
救急車の出るのを待って二人はパトカーに分乗し、署に連行され
た。
「あの人は関係ない!」
警察の尋問を受けたアキラから出た言葉はそれだけだった。
「お前、プロだったんだってなあ。」
「それがどういうことか、分かってんだろうな。」
「いつまで、だんまり決め込むつもりなんだ。え?」
「そっちがそのつもりなら、覚悟しとけよ。」
「死ぬまで、出してやんねえからな。」
結局、アキラは拘置期限一杯まで過ごした。釈放されたのは期限
が切れる最後の金曜日の午後だった。
身柄引受人はシンジだった。そして、シンジの尽力だったのを、
アキラは聞かされていた。警察署に迎えに来たシンジに、アキラ
は深く頭を下げた。
「よし、呑みに行くぞ。」
シンジの第一声は、それだった。
2010年3月28日日曜日
小説 「バック ロード」 28 戸口 了
その瞬間、ケースから手を放したアキラの右手は、ギターの重み
から解き放たれ、その男の顎を力一杯粉砕していた。
男は二、三メートルほど吹っ飛び、動かなくなった。
「てめえ、なにしやがんだよ!」
「ふざけんじゃねえぞ!」
他の三人がアキラに飛び掛かってきた。アキラは自分のボクシン
グスタイルをとらずに、一発のパンチも受けることなく、三人を
それぞれ、一発で地面に這い蹲らせた。四人とも身動きひとつし
なかった。
アキラは最初の男のところへ行き、左手で胸ぐらを掴んで立たせ、
サンドバッグのように右の拳を腹に打ち込んだ。
ワン、ツー、男の反応はなかった、スリー、フォー、アキラの眼
から泪がこぼれ落ちた、ファイヴ、シックス、男の口から吐しゃ
物が噴き出した、セヴン、エイト、それが血に変わった、ナイン、
最後の一撃を顔面に打ち込もうとして拳を振り上げたとき、その
右腕に圧力を感じ冷たい感触と共に乾いた金属音を聞いた。
「暴行、傷害の現行犯で逮捕する!」
「アキラ!」
振り返ったアキラは、そこに二人の制服警察官とシンジの姿を見
た。誰が警察に通報したかは分からなかった。
から解き放たれ、その男の顎を力一杯粉砕していた。
男は二、三メートルほど吹っ飛び、動かなくなった。
「てめえ、なにしやがんだよ!」
「ふざけんじゃねえぞ!」
他の三人がアキラに飛び掛かってきた。アキラは自分のボクシン
グスタイルをとらずに、一発のパンチも受けることなく、三人を
それぞれ、一発で地面に這い蹲らせた。四人とも身動きひとつし
なかった。
アキラは最初の男のところへ行き、左手で胸ぐらを掴んで立たせ、
サンドバッグのように右の拳を腹に打ち込んだ。
ワン、ツー、男の反応はなかった、スリー、フォー、アキラの眼
から泪がこぼれ落ちた、ファイヴ、シックス、男の口から吐しゃ
物が噴き出した、セヴン、エイト、それが血に変わった、ナイン、
最後の一撃を顔面に打ち込もうとして拳を振り上げたとき、その
右腕に圧力を感じ冷たい感触と共に乾いた金属音を聞いた。
「暴行、傷害の現行犯で逮捕する!」
「アキラ!」
振り返ったアキラは、そこに二人の制服警察官とシンジの姿を見
た。誰が警察に通報したかは分からなかった。
2010年3月27日土曜日
小説 「バック ロード」 27 戸口 了
「行くぞ、アキラ。」
シンジはさっさと伝票を手に取り、会計に向かった。アキラも黙
って、それに従った。
「弾けねえくせに、ブルース面すんじゃねえよ、なあ。」
アキラの背中に罵声が突き刺さっていた。
店を出た二人は無言で駅に向かった。途中の角のコンビニの前を
通り掛かったときにアキラが声を掛けた。
「シンジさん、すいません。ちょっと、飲み物を買っていきます
んで、先に行ってて下さい。すぐ追いつきますから。」
「あ、ああぁ。」
シンジが角を曲がったのを見届けて、アキラはすぐにきびすを返
した。
時間はあまりなかった。シンジが気付いてすぐに戻ってくること
は、分かっていた。アキラは急いで居酒屋の暖簾を上げた。
外で待ってはいられないので、一度店内に足を踏み入れた。連中
はすぐに気付いた。それを確認したアキラは外に出た。
間もなく、男達は出てきた。
「ようよう、なんだよ。弾く気になったんかよ。」
「ははは、ほら聴いてやっから、ギター出しな。」
「こいつは、開けとけよ。金、入れてやっからよ。」
一人がギターケースに蹴りを入れた。
シンジはさっさと伝票を手に取り、会計に向かった。アキラも黙
って、それに従った。
「弾けねえくせに、ブルース面すんじゃねえよ、なあ。」
アキラの背中に罵声が突き刺さっていた。
店を出た二人は無言で駅に向かった。途中の角のコンビニの前を
通り掛かったときにアキラが声を掛けた。
「シンジさん、すいません。ちょっと、飲み物を買っていきます
んで、先に行ってて下さい。すぐ追いつきますから。」
「あ、ああぁ。」
シンジが角を曲がったのを見届けて、アキラはすぐにきびすを返
した。
時間はあまりなかった。シンジが気付いてすぐに戻ってくること
は、分かっていた。アキラは急いで居酒屋の暖簾を上げた。
外で待ってはいられないので、一度店内に足を踏み入れた。連中
はすぐに気付いた。それを確認したアキラは外に出た。
間もなく、男達は出てきた。
「ようよう、なんだよ。弾く気になったんかよ。」
「ははは、ほら聴いてやっから、ギター出しな。」
「こいつは、開けとけよ。金、入れてやっからよ。」
一人がギターケースに蹴りを入れた。
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