カズオの家を通り過ぎたとき、ヤスコの顔に不安が横切ったが、
アキラはなにごともなかったかのようにコルベットを峠の上りに
入れた。アキラの運転は益々荒くなっている。白いモンスターは
本来の姿を剥きだしにしていた。大排気量のエンジンに極端に軽
いボディを載せた怪物はテールを大きくスライドさせながら、小
さな獲物を次から次へと蹴散らせていった。先行者のテールに接
触させる位に近づき、爆音で煽った。
一台だけ立ち向かった車がいた。四駆の俊敏な日本車で、コーナ
ーでは地面を的確に噛み、アキラのコルベットでは歯が立たない。
しかし、アキラはパワースライドさせ、対向車線にはみ出してま
で果敢に攻める。やがて、恐れをなした相手は脇道にノーズを突
っ込んでいた。
もう、ヤスコはなにも喋らなかった。シートベルトを締めてはい
たが、手と足を突っ張り身体を安定させるのに必死だった。
頂上の駐車場に乗り入れたときには、噂を聞きつけてきた連中が
溜まっていた。その中をアキラはゆっくりと進み、端の空いてい
るスペースに滑り込ませる。そして、エンジンを切った。
観衆は遠巻きに取り囲んで、ヒーローの出現を見守っている。
しかし、その期待は裏切られた。
0 件のコメント:
コメントを投稿