「ありがとう。」
従業員が差し出したコーヒーを受け取ろうとしたアキラの手は震
えていた。そして、力加減を失った指は紙コップを握り潰した。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、すまん。こいつの振動が乗り移ったみたいだ。」
白煙を上げてコルベットは発進し、助走路を無視して本線を横切
り、いきなり追い越し車線を加速した。
アキラは出来る限りに自分に緊張を科した。本線に戻り、先行車
との間を極端に詰め、そして、鋭く抜き去る。毛糸の玉にじゃれ
つく子猫のように、次から次へと繰り返し、なにも考える余地を
与えない。
東京に入る前、最後の給油のためにパーキングに乗り入れた。
「いらっしゃいませ!」
「満タン。」
「お客さん!お客さん!」
「あ、ああ?」
従業員に起こされるまで、アキラの意識は途切れていた。
「大丈夫ですか?ちょっと休んでいかれれば?」
「いや、もうすぐ家だから。」
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